東京近郊で、木組みと土壁の家づくりを実践しています。

2010年10月17日

司牡丹と土佐鶴

 10月14日午後、高知市で行われた日本漆喰協会作品賞の表彰式に前後して、14日の午前中は佐川町を、15日は安田町を訪ねた。佐川町は高知市の西20kmに位置し、土佐の銘酒・司牡丹酒造の蔵の町として知られ、一方の安田町は高知市の東40kmに位置し、同じく土佐の銘酒・土佐鶴酒造や南酒造がある町として知られている。酒造りには欠かせない酒蔵といえば、漆喰塗り・切り妻の瓦屋根が多いが、旅先で思いがけず、贅を凝らした・大工や左官の職人技を発見する楽しみがある。加えて、季節によっては利き酒などのおまけまで付いてくる。

 佐川・上町の司牡丹酒造の酒蔵はとにかく長い。水切り瓦の付いた漆喰塗りの壁が85m続き、酒王・司牡丹と書かれた大煙突がそびえている。酒蔵の道の四つ角をはさんで地域の一角が丸ごと酒造りの場となっている。出入り口は少なく蔵の白壁が続くが、主たる出入り口横に手の込んだ五段鉢巻の蔵が建っている。鉢巻とは、軒の出の短い土蔵屋根と壁との見切り部分に設ける上方斜めに沿ったもので、土蔵の意匠を決める一つの要である。

司牡丹酒造蔵.jpg

 土蔵の白壁の下半分は、格子状の海鼠壁が施工されている。海鼠壁は、灰色を基調にしたおとなしい日本の景観に、ワンポイントの強烈な印象を与える意匠であり、今では地域の観光資源として大事に保護されているらしい。斜め45度の四半張りが多いが、馬乗り型、亀甲文様など種類は多い。司牡丹酒造の海鼠壁は、正方形の格子で漆喰盛り付け部分も丁寧に美しい。なにより、日本の伝統意匠の中ではとてもモダンなデザインに見える。



 高知県は太平洋に面して東西に長い。北に向かうことが多い台風の進路の関係か、土佐漆喰で塗り込めた鎧壁の大壁に幾段もの水切り瓦を付け、壁の下を海鼠壁で張り上げる完璧な防水対策の家は、安芸市・安田町・室戸市など高知市から東の地域に多い。水切り瓦の上のつなぎ部分に漆喰で盛り上げる納まりはこの地方独特のものである。水切り瓦を付けない鎧壁の意匠は、さっぱりとてして伝統的な納まりにありがちな重さを感じさせない。自分も左官で大壁にする設計の場合は、20年前からいろいろと試してきたが、現代都市の中で十分通用すると確信している。

久保田騎志夫邸.jpg

 土佐漆喰との付き合いは、23年前に自分の仕事場を作る時にから始まるが、安田町の左官名人・久保田騎志夫氏に教わったことがほとんどである。土佐漆喰の一度は廃れた伝統技法をよみがえらせ、全国に広めるのに久保田さんの果たした功績は誰でも認めることである。そして、自分の持てる左官技量を残さず発揮して作り上げたのが、安田町の自宅である。土佐漆喰の完璧な納まりと表現の全てが詰まっていると言ってよく、何度訪れても感動する家である。

 さて、この地方を車を走らせながら考えるのは、豊かさとはなんだろうということだ。都市部の家を見慣れている目には、卵色した漆土佐喰塗りの外壁、水切り瓦や海鼠壁、地場の瓦で作り上げた家々が、憧れに近い魅力を感じる対象として映る。

 このことは、土佐地方ばかりではあるまい。その地方らしい素材・工法・表現に沿った家のたたずまいこそが、本当の豊かさを感じる元になっていると考えれば、薄っぺらな都市住宅の表現などに惑わされることもないだろう。伝統と呼ばれる見慣れた素材や納まりでも、今の時代に沿った表現は必ずある。それを考え、実践し続けることが木造の伝統を引き継ぐことになる。

 2010年10月17日 高橋昌巳


 
posted by 高橋昌巳 at 18:27| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年10月16日

日本漆喰協会作品賞

 10月になり、湿度が低く空がどこまでも透き通る「白い秋」を感じられる日が訪れるようになった。コスモスの花が風に揺れ、どこからとなくキンモクセイの甘い香りが漂ってくる。彼岸を過ぎると夜が早く、月の満ち欠けがはっきり見えてくる。新米ばかりでなく、「ひやおろし」の酒の味を堪能するこの時期は、ちいさな豊かさを実感できる季節でもある。

 「代沢の家」の仕事を通じて、日本漆喰協会の第5回作品賞をいただいた。10月14日、高知県高知市で開かれた表彰式に、左官の加藤信吾氏と出かけた。一昨年は所沢の店蔵を移築した加藤左官の自宅が、昨年は西神田で行った築46年の町屋改修が対象となった。土壁や漆喰などの塗り壁を設計に取り入れて久しいが、仕事の成果を3年続けて評価していただけたのは、嬉しい限りである。

代沢の家1.jpg

 この作品賞の特徴は、国内の漆喰やドロマイトプラスターを使用した仕事を対象とし、設計者・施工者・左官の3者を表彰している点にある。優れた仕事は、設計だけから生まれるのではない。全体をまとめる施工者と、材料を調合し思いの仕上げを完成される左官職とが、三位一体となって初めていい結果となるのである。さらに、仕事を発注する立場の施主の熱い思いも少なからず入っているのだから、正しくは四位一体と言うべきなのだろう。

代沢の家2.jpg

 この度の家は東京の山の手の住宅地に建てたもので、太い部材による木組・竹小舞土壁・燻し銀日本瓦・木製建具などの伝統的技法を多用しながら、現代町屋を意識して仕事に臨んだ。中間仕切りを含めてほとんど全ての壁は竹小舞土壁としている。外壁は土壁の外側に炭化コルクと空気層を設けてから、杉ラス下張り・モルタル塗り・土佐漆喰ノロ掛け押さえとした。床下・外壁・屋根には自然素材の断熱材を入れ、開口部は高性能のガラスを使った木製建具とした結果、伝統的な工法で作り上げているが、機密性の高い家が生まれている。

 記録的な暑さが続いたこの夏から、この家の内外3ヶ所で温度と湿度の自動計測を初めた。家の中に風が抜け、訪れるたびに気持ちのよさを実感できるが、快適な空間の成立に土壁と断熱材とによる構成が役立っているようだ。冬の時期にも、再度計測を続けてみてから、分析結果を発表したい。

 式の後で講演会があり、別の会場で各地の左官職人と懇親を深めた。初めて会う各地に左官職が、自分の書いた文章を通じて覚えていてくれるので、同窓会的な場に近い。漆喰材を作る素材メーカー、海草糊の専門店、そして長老や若い左官職たちと、夜まで酒を飲みながら塗り壁の話ができる一時は、何にも代えがたい至福の時間といっても良い。分かれた後も、各地で仕事をがんばっていそうな人達。また、来年会えるように、自分も仕事を続けていこうと思う。

 

 
posted by 高橋昌巳 at 20:31| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月30日

才採り棒

 現在練馬区内で進めている住宅の荒壁付けが昨日終了した。この家の荒壁の面積は延べ124uあり、別の場所で半年以上水合わせして寝かせた粘土を現場に運んだ。竹小舞の片側から付けて、裏返し塗りを行うと、荒壁の厚みは約4pとなるので、使う土の量は124u×0.04m=4.96㎥。つまり、一軒の家の荒壁に約5㎥の土を付けることになる。敷地の南側にスペースが確保できたので、合板を並べてブルーシート広げ、およそ5坪分くらい広さに練った泥を置いた。これを全部竹小舞下地に付けていくことになるのだが、大変な量である。

 荒壁付けの作業は、泥の運び手、配り手、塗り手が一組になって行う。現在は圧送ポンプがあるので、ホースを伸ばして室内に置いたフネまで柔らかく練った泥を送ることができる。運び手の仕事は、泥を練ってポンプに繋いだミキサーに入れることが中心となる。ガソリンで動かす小型のポンプなので、時々は泥がホースの途中で詰まって動かなくなることもあるらしい。その時は、ホースを解体して中の粘土を出して掃除してから再開するという。ネコ車に積んで運ぶよりは楽だと思うが、大変な作業だ。

才取り棒.jpg

 フネに運ばれた泥を、コテ板に載せて竹小舞に塗る左官の手元に届けるのは、配り手の仕事である。この時、直径4p長さ2m程度の丸棒の先にヘラを付けた才採り棒が活躍する。フネの中の泥を棒の先のヘラに載せ、待ち受ける塗り手のコテ板に載せてあげるのだが、簡単に見えてこれで結構コツがいる作業なのだ。1sはあるだろう泥の塊を棒の先に載せて、高い位置まで上げるのだから当然力がいる。傍で見ていると軽々と作業を続けているが、素人は先ず持ち上がらない。上がったとしても続かない。すぐに代わって欲しいと弱音を吐く。

 親方から教わったコツは、長い棒の先を持ち上げるにはテコの原理で、左手を棒の中心に添えて持摑み、右手で端を持ってぐっと下げると泥を載せた先端のヘラが上がるのだという。ただし、この作業を腕だけの力でこなそうとしても直にばてる。腰を使うのだそうだ。掬う・持つ・上げるの一連の動きを体全体を使って行なえば、疲れることもなく一日続けることができるのだ、そうだ。この現場を担当している加藤左官工業は、親方の息子の信幸氏を除いては、高齢者と女性郡である。やはり、力ではなくてコツが勝負の世界らしい。

 この才採り棒という道具は、江戸時代に描かれた職人絵図にも見られる。当時の荒壁塗り作業に、現在使用しているのとまったく同じものが登場している。高い・低い・遠い・近い、待ち構える左官がどんな位置にいても一塊の粘土を配るのに、一番役に立つ、使いやすい形で完成された道具なのてあろう。簡単な形こそ永遠の原理を含んでいる。何だか、才採り棒が輝いて見えてきた。

 2010年9月30日 高橋昌巳

 
posted by 高橋昌巳 at 20:14| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
 
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