東京近郊で、木組みと土壁の家づくりを実践しています。

2010年11月15日

恵比寿大黒と珪藻土

 茶の花、山茶花、柊の花など11月に咲く花は、奥ゆかしいものが多い。常緑の葉に隠れがちな花弁を付けた小枝を、備前焼きの徳利や越前焼きのお歯黒壷など、小ぶりの花活けに挿す。控えめな花が、あたりの空気に落ち着いた華やかさを添えていく。

 下駄箱の上でも、トイレの棚でも、そこに花があるだけで、ガサガサしがちな気持ちに、わずかでもゆとりが生まれてくるのを感じる。野に生えても、木の枝に付いていても、花は花なのだが、切って器に挿すという行為が、花を見て感じる花に変えるようだ。

 昨日11月14日に、柏市のO邸で開いた見学会では、数家族の方に家の内外を見てもらうことができた。快く応じてくれた建て主家族は、ご夫婦で細かく説明をしてくれ、座卓を囲んで始めてお会いする方々に自分達の経験談を語ってくれた。おばあさんと二人の息子さんとお嬢さんも、お客に出迎えの挨拶をしてくれたのが嬉しかった。

 新居に移り住んで1年近くになるが、こざっぱりとした生活を続けている。人が来れば大抵は片付けをするものであるが、この家ではご主人自ら掃除をするようになったと話していた。柱・建具・壁などを見ているだけで、飽きないという。綾織の畳表の表情や襖の市松模様張りなど、職人の手間がどれだけ掛かっているのかを見て知っているから、人には細かく説明したくなるらしい。

岡田邸台所壁.jpg

 この家の壁は、1階の半分が中塗り土、台所が珪藻土入り漆喰、階段と2階が黄土ハンダで仕上げてある。台所には杉の厚板で製作した大テーブルが置かれ、この家族が集まる場所となり、書類を広げての事務的な作業も行われるらしい。家族にタバコを吸う人はいないが、他人が半日この部屋でタバコを吸っていても、夕方には臭いは消えているという。どうやら、漆喰に混ぜた珪藻土が効いているようだ。

 20年近く前、ある家の台所の壁に珪藻土を混ぜた中塗り土を塗ったことがある。「カレーを作った日に、以前の家では玄関までカレーの臭いが漂ってきていたが、新居ではまったく他の部屋には臭いが移らなくなった」、といって驚いていたのを覚えている。多孔質の珪藻土の吸臭作用はよく知られている。座敷の壁に塗れば、畳の香りを吸収してしまうほどの効能がある。

 市販の珪藻土仕上げ材には興味は湧かないが、珪藻土の効能は使い方次第で喜ばれることが多い。既調合袋ものの漆喰材料に、15%程度の珪藻土、パーライト、藁スサを加えて練り、コテで撫でて仕上げると温かみのある壁が生まれる。

 台所の棚上に置かれた恵比寿様と大黒様も、澄んだ空気の部屋に置かれて、きっと居心地がいいに違いない。

 2010年11月15日 高橋昌巳

 
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2010年10月31日

荒壁斑直し塗り

 10月も今日で終わりで、この一週間でめっきり寒くなった。今年は夏の猛暑がお彼岸まで続いたこともあり、青空の秋を感じる間もなく冬がそこまで来ているようで気ぜわしい。
 
 ザクロが熟して割れ、カリンが黄色の大きな実を付け、草ボケの実も採り頃となり、果実酒づくりを楽しむ季節。群馬の瓦屋さんが採ってきた大きなマツタケをもらい、醤油と酒で味付けてマツタケご飯を炊いた。焚きたての香りがいいのはもちろんであるが、少し冷たくなっても十分おいしい。今年から野菜づくりを少しづつ始めているが、野菜・キノコ・果物を旬に味わう幸せを改めて感じている。

 月末の季節はずれの台風の通過で、予定の変更を余儀なくされた人も多かったに違いない。現場は足場のネットを締め直したり、板を打ち付けたり忙しい。
 
 長雨、台風、大雪、寒波、猛暑と、21世紀の今も、建築工事は天気や陽気と相談しながら仕事を続けている。材木は雨に濡れれば膨張する。左官材料は温度が低いと乾かないし変色もする。自然素材を使って家を建てるには、天の神様の顔色を伺いながら対処する知恵が必要だ。これを忘れるとうまくいかないことを、外で仕事を続けるベテラン職人は知っている。あまり急いだり、時期をはずしたりすると、ろくな結果にならないことを自分も多少は経験してきたつもりだ。わかっているのであるが、時間の管理はいつも難しい。

大関邸荒壁斑直し塗り.jpg

 横浜の現場は木工事も終盤に入り、外部の焼き杉羽目板張りに続いて、上部の壁の斑直し塗りが行われた。竹小舞土壁下地に土佐漆喰を塗って外壁を仕上げる場合、荒壁塗り→裏返し塗り→斑直し塗り→土中塗り→砂漆喰塗り→土佐漆喰下塗り→土佐漆喰仕上げ塗りの順に塗り重ね工程を行う。

 荒壁には砂を混ぜずに硬く固まる下地をつくり、斑直し・中塗り段階で粘土に砂とスサを加えて割れ難い平滑面の下地を塗る。さらに砂漆喰を塗ることで壁の防水効果が高くなる。最後の漆喰塗り工程は、厚塗りした漆喰塗り層を時間の許す限り入念に力を入れて押えていく。どの工程も精度を上げて完成させていかないと、次の塗り工程において、塗り厚の差による斑乾きが生じ、うまく納まらない。

 現場の吉田左官に聞いた話では、漆喰塗り壁の工程を簡略したことで生じる故障が多いという。高知県の田中石灰工業の伊吹さんからは、「ラス下地に軽量モルタルを塗ってから、直に土佐漆喰で仕上げたが、割れが生じたのは材料が悪いせいだ」、という苦情が来て困ったという話を聞いたことがある。左官の塗り重ね仕事は、工程を途中で一時終了することはあっても、工程の簡略化には馴染まず、無理して進めても必ずツケが回ってくる。しかし、丁寧に仕上げた壁は数十年間に渡っていい状態を保っているを、自分の事務所の壁が証明している。

 超長期優良住宅なるものを、国をあげて取り組んでいるらしい。使用材料の地産地消も各地で熱心に取り組まれている。ほんとうに長持ちする家の見本は、各地に残る民家を見ればわかるのだから、伝承的な技法はそのまま引き継ぐことが一番だ。人間の都合ではなくて、素材自体の都合に合わせることも大事なことの一つだと思う。

 2010年10月31日 高橋昌巳

 
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2010年10月24日

魚梁瀬スギ・千本山

 高知市を訪ねた翌日の15日、田中石灰工業の伊吹さん・土佐漆喰名人の久保田騎志夫さん・加藤左官の加藤信吾さんと車で、馬路村の魚梁瀬(やなせ)スギを見に出かけた。自分が30代の頃に高知市内の営林局土場で見た魚梁瀬スギの巨木を忘れられず、これまで数回の高知県を訪れたが機会に恵まれず、スギ山を見にだけに3時間車を走らせた。
 
 安田町にある久保田氏の自宅の前を通過して、安田川に沿って一本道をひたすら登ると、柚子の生産で村おこしに励む馬路村の集落に入る。さらに、魚梁瀬ダムの脇を通り舗装のない道を5kmほど行き、これより先は車の入れない徳島県の県境まで数キロ地点で降りた。魚梁瀬スギ特別保護地区の看板はあるが、下からスギの巨木が見える訳ではない。川に掛かった吊橋を渡り、木製階段を上ったところに確かに大木が生えていた。地際の直径が軽く2mを超えるスギがまばらに残っている。

 スギは日本固有種で一属一種の木であるが、その特徴は生えている場所に応じて変化がある。同じスギでも秋田天杉・吉野杉・大分県英彦山の鬼杉・屋久杉は、それぞれにまったく表情が異なり、建築用材としての使われ方も違う。魚梁瀬スギは通直で赤みが強く、天井板や羽目板ばかりでなく、巨木ゆえに豊臣秀吉の時代から大規模な伐採が行われ、大阪城・二条城・江戸城など大きな普請の度に、山奥からの切り出しが続いたという。

魚簗瀬スギ.jpg
 
 1607年から1700年までに約96万本の杉の大木を上納したというのであるから、豊かに山も枯れる訳だ。江戸初期には山内家三代目の忠豊は、とうとう消失した江戸城再建の材木用立てを断ったと伝えられている。その後は、幹廻りが2.4m程度まで育つのを待って、およそ300年掛けて生育させる超長期間伐を続けて残ったという。しかし、明治になって国有林となったとたんに、また皆伐が始まり、戦後林業のめまぐるしい政策変更の後に、特別保護林として残っているのが千本山なのである。

 標高1084mの千本山頂上まで約1時間掛かるが、尾根に差し掛かったあたりで樹相が変わってくる。千本山の魚梁瀬スギ林は、人の手の掛からない大木が密集して生えている様子が独特で一種神聖な空気が漂っている。直径1m近い巨木がわずか2m程度の間隔で林立し、中には根元が一つになって上部で2本に別れている樹もある。根元は確かに太いが、直に円筒形に近いまっすぐな樹形になり、40mを超える姿はほれぼれするほど美しい。温暖・多湿の気候がスギの生育に適していて、すくすく自由に育っているようだ。この山に残された天然の樹林の中は、等間隔に植えられた人工林の様子とは対極の、管理されないおおらかさを感じる。

 魚梁瀬ダム周辺の山は、尾根を残して完全にスギの人工林で覆いつくされている。奈良県吉野美林は200年の生育を続けてきているが、ここの魚梁瀬スギもこれまでの伐採時期を120年から200年に延ばすという。そうでもしなければ、樹齢300年以上の魚梁瀬スギ本来の姿が、この先残って広がる可能性はない。ただ、疲弊したこの国の林業の現場に、そこまで待っていられるのかどうかは、はなはだ難しい問題だ。遠い場所に残された魚梁瀬スギ美林を、多くの人に見て欲しいと思った。
 
posted by 高橋昌巳 at 19:58| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
 
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