東京近郊で、木組みと土壁の家づくりを実践しています。

2010年12月09日

冬の朝日

 横浜の現場も最終仕上げの段階に入り、大工・左官・ガラス・水道などの職方が完成に向けての丁寧な仕事を続けている。外部足場と養生シートがはずされると、始めて外観の全景を眺めることができる。長い工事工程のなかでは、地鎮祭や上棟式と同じくらい待ち遠しい日となる。

 燻し銀瓦、土佐漆喰、焼き杉羽目板の組み合わせが、当事務所の最近の定番仕上げとなっている。仕上げ材は決めていても、窓の位置や屋根形などのバランスは、敷地や設計に応じて毎回少しづつ異なる。完成度を少しでも上げるべく、図面を描き模型で確認して仕事に励むのであるが、良かったかどうかはシートを剥がしてみて始めて見えてくる。心踊る一方で緊張する瞬間でもある。

 工事の先が見えてくれば、建て主にしても嬉しいに違いない。この日は、施主の親が知り合いを案内して現場を見せていた。一人は、岩手県出身の宮大工で、中尊寺の覆い屋の工事にも携わったと話していた。焼き杉羽目板・7寸角の柱・赤松のタイコ張りを見るのは珍しいことらしく、ずいぶんと関心がある様子で、竣工時には再度見せてくれる様、建て主に依頼していた。

 土台の柿渋塗りや焼き杉羽目板の製作作業は、当事務所では建て主の仕事としている。自分も関わった工事を、他人から良く言われて気分を悪くする人はいまい。こんな思い出が、これから住む家を大事にしてくれる気持ちの根っこになってくれればありがたいと思う。

大関邸中塗り仕上げ.jpg

 内部の壁は、愛知県の椛コ金工業・村井さんの中塗り土を塗って仕上げている。村井さんは、豊田市で現在も色土の採取と色粉の生産を続けている数少ない素材業者である。1階の内部壁は、中塗り用の藁スサをそのまま見せる、「切り替えし中塗り仕上げ」とし、一方畳の部屋のみ同じ材料を「鏝引きずり仕上げ」で納めてもらった。

「粘土の色は一つとして同じものは無い。しかし、どんな色の土を壁に塗っても、もともと木は土から生えているのだから、木と土は相性がいい。土塗りの家には落ち着いた雰囲気が自然と生まれる」。現場を担当している、吉田左官の言葉である。学校では教えてくれない真理を、また一つ現場で教えられた。

 冬の朝日が、柔らかい表情の土壁を照らしていた。

※椛コ金工業・村井さんの中塗り土については、シティ環境建築設計のHP中、自然素材・左官用色土の作り方にレポートをまとめてあります。ご覧いただければ幸いです。

 2010年12月9日 高橋昌巳
posted by 高橋昌巳 at 18:58| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月30日

冬支度

 霜月も今日が晦日、明日からは師走。光陰矢のごとし。時の速さをあせってみても仕方が無いので、今日自分のすべき仕事をしていくだけ、と考えるようにしている。忙しくしていられるのは、社会に少しは必要とされている証、と思えば気も楽になるものだ。
 
 複式呼吸で、大きく腹に溜め込んだ息をできるだけゆっくり吐く。胸を張って大きく息を吐くだけだが、仕事に取り掛かる前に少しの間続けると、頭がすっきりとしてくる。自立神経のバランスを整える効果もあるらしく、座禅の効能にもつながるとテレビで紹介していた。気を落ち着けるにはいい方法の一つだと感じている。

 紅葉の便りが各地で聞かれる頃。日の光を透過して見上げるモミジの鮮やかさに、季節のはっきりした国で生活できる幸せを実感する。武蔵野の街路樹にはケヤキとイチョウが多いが、天気のいい日に紅葉した大木を下から眺めるのは気持ちがいい。今年は熱い夏の後に急に涼しくなったせいか、ドウダンツツジも真っ赤に色づいている。

 自宅の台所の北側は一部をガラス屋根としてあり、ザクロの大木の枝が覆いかぶさっている。4月の赤芽、5月の新緑、6月の紅花、夏の緑陰、11月の紅葉と、一年を通じてザクロを見上げて四季を楽しむことができる。

自宅トップライト.jpg

 紅葉を楽しんだ後、我が家の冬支度が始まる。師走を迎えるこの時期、ガラス屋根の上に落ちた葉っぱで空が見えなくなる。当然室内も暗くなる。雨樋も落ち葉でいっぱいとなり、一年間の土がたまって詰っている。雨樋の掃除も兼ねて、屋根に上って洗剤をつけてガラスを水で洗っていく。剪定ばさみで増えすぎた枝を切り、ザクロ酒用に使う赤く熟れた実を収穫する。甘ずっぱい実を口に入れると、子供の頃の記憶がよみがえる。

 青空を見上げられる状態になったガラス屋根を上で、黄色く染まったザクロの葉が風に踊っていた。気持ちのいい秋の日の午後、ゆっくりと時間が流れていくのを感じた。

 2010年11月30日 高橋昌巳

 
 
posted by 高橋昌巳 at 20:57| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月22日

鎌倉探索

 11月20日、紅葉が始まった秋晴れの鎌倉市街を探索した。これまでに市内で5件の家づくりに携わってきたので、おおよその地図は頭に入っている。露地や山道が多いこの町は、時間のゆとりのあるとき、行き場所を特定しないで歩いのがいい。ところどころに残る石積みの擁壁、竹垣、庭などと釣合の取れたいい家を、じっくり眺めながら歩くひと時は時間の経つのを忘れる。

 この日は、鎌倉市駅から、笹目と由比ガ浜で建てた家を眺め、和田塚駅から江ノ電に乗り、腰越で設計事務所を始めている和温スタジオの高橋理恵氏を訪ねるコースで歩いた。大船駅までもどって金沢八景行きのバスに乗り、横浜市山の家で開催された木の家ネットの総会に夕方から参加した。

鎌倉・石川邸.jpg


 最初に尋ねた笹目の家は2007年に竣工したもので、庭師による植栽が建物とバランス良く整備されている。山を背景にして、静かなたたずまいの家が多いこの界隈に、少しずつ馴染んできている様子が見て取れて嬉しかった。土佐漆喰塗り曲面鎧仕上げの妻壁、大谷石積みの塀、苔と植栽が、時間の経過とともに、きっとさらに味わい深いものになると想像し、何度も振り向きなから後にした。


鎌倉・岡部邸.jpg


 江ノ電の線路を渡ると、ほどなく2001年に竣工した由比ガ浜の家に着く。10年間という時間の経過がしっかりと現れていて、どっしりとした姿である。竹小舞土壁塗りに色土を塗って仕上げた外壁は、自然の洗い出し仕上げ風となり、黒くなった杉材の架構に似合っている。まとまった敷地が細かく開発されて無国籍風の建物も珍しくない鎌倉にあって、ここではほっとする空気を感じられた。

 腰越で小さなカフェを開いている高橋理恵氏は、5年前に当事務所から独立して鎌倉で仕事を続けている。江ノ電が道路を走る様子を眺められる店は、こじんまりとしているが、板や漆喰塗りで仕上げられた居心地の良い空間である。コーヒーと自家製カレーも、セットで1000円という金額からすれば納得できる品質だと思った。鎌倉・カフェ・設計士とライフスタイルとして、自分らしい生き方を続けている様子で今後が楽しみである。

 夕方から21日に掛けて参加した木の家ネットの総会は、とにかく熱い思いの人が集まる場で、元気をもらった。密度の高い会合を開くまで走り続けてくれた関係者の方々の御努力には、頭の下がる。日を改め、頭を冷やしてから会に参加した経験をまとめたい。

 2011年11月22日 高橋昌巳


 

 
 
posted by 高橋昌巳 at 20:40| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
 
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