東京近郊で、木組みと土壁の家づくりを実践しています。

2010年12月29日

夕焼け

 一年の区切りの仕事納めの日。朝一番で、頼まれていた都内の住宅の外壁亀裂補修を済ませ、午後は、埼玉県内の土地購入予定の家族と現地調査を立会い、意見を述べて家の竣工までの工程を説明した。事務所の大掃除は所員に任せたが、自分の机の周辺はまだ片付かない状態でいる。

 いろいろなことがあった一年。続けている仕事の内容は変わらないが、建築への取り組み方を変えた年であった気がする。自然素材・伝統的な工法の家づくりは、気持ちが良くて長寿命の実績もあるのだが、構造的安全性や温熱環境の実際はきちんと解明されていない。気分で語るのはやめ、現況をきちんと理解し、わかるように変えていかねば何も変わらないと思い、動き出した年になった。

 建築環境総合性能評価システム・CASBEEの建築評価員の資格を取り、土壁の家数軒で室内外の温度と湿度の記録採集を始めた。建築瑕疵担保責任保険の仕様規定とはズレがある伝統的な木の家造りの実際に対し、当事務所で進めている工法の詳細を百数十枚の詳細図を示して、「竹小舞土壁の家」の包括的な合意を、(財)住宅保証機構と取り交わした。

 千葉県君津市では、築57年の家と附属の築27年の家を住宅病理学的見地から詳細調査を行い、改修に当たり、工事前と工事後の性能を数値で見えるようにし、設計に反映するようにした。来春から始まる改修工事が完了した後に、改めて性能評価を実施したい考えている。住宅医という資質を深めて、改修の実践に役立てることがようやく始まった。

 仕事の成果を公開することは、これまでも様々なメディアを通じて行ってきたつもりであるが、今年後半から、工事中の現場を一般の人に公開して見ていただく試みを続けている。竹小舞土壁がこれからの木造都市住宅を切り開く工法となりうることを確信できた年であるが、もっと広く伝えていく努力が必要で、素材のこと、工法のことを知ってもらう現場見学会を今後も続けるつもりである。

 芝浦工業大学建築工学科の学生に、木造の設計製図を教えて早5年。1年生が、住宅の意匠図・構造伏図・軸組み図を作成し、自分の設計の家の軸組み模型まで製作する。後期15回で実行する内容としては、少々無理があると思えるほど密度は高い。どこまで理解してもらっているか心配でもあるが、木構造がわかる学生を送り出すことは大事なことだと思い、沢山の時間を割いている。はやく独自の教科書をまとめたい。

夕焼け空.jpg

 多くの方々に支えられて、一年を過ごすことができました。家造りはチームで行うことであることを、再認識した年でした。夏から始めた、この「土壁ブログ」を読んでいただいた方々には、改めてお礼申し上げます。皆様におかれましては、来る年がさらに実り多い年となりますことを、切にお祈り申し上げます。

2010年12月29日 高橋昌巳
 
posted by 高橋昌巳 at 21:07| Comment(10) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年12月27日

冬の夜空

 冬至も過ぎる頃、夜の訪れの早さには驚くばかりで、一日の時間が短くなったように感じる。この時期、暗くなると目に付くのが、クリスマス用イルミネーションの点滅である。趣向を凝らした華やかさは嫌いではないが、畑の残る静かに住宅地には、家の外壁や垣根に施された大掛かりな電飾は似合わないように思う。

 個人の自由といってしまえばそれまでであるが、点滅する明かりはそれだけで静かな夜の環境に少なからず影響を与えている。防犯上ただでさえ明るすぎる住宅地において、家を点滅する電飾で飾りたいのであれば、もう少し暗めて品のある飾りを工夫してもらいたい。

 では、暗めで品のある明かりって何だろう。宇宙からは関東平野全体が光っているように見えるほど明るすぎる首都圏では、もうそんな暗さの残る場所はないのかも知れない。自分の経験の中でも、明かりの品格を探すのは簡単ではない。

 京都の宇治上神社の森を上る参道に置かれた外行灯、奈良の法隆寺金堂での夜のお勤めと釈迦三尊を見るために、回廊に並べられた行灯。蛍光灯による上からの明かりが全く無い闇の空間で、行灯のほのかな明かりほど、品や粋を感じさせる夜のしつらえはないように思える。ばかげた明るさを省いて、夜しか味わえない世界を取り戻す時が来ている。

野呂邸の満月.jpg

 夜しか味わえないもの。月の移ろい。星のまたたき。冬の夜は、空気が澄んでいて星を見るにはいい季節である。普段は忙しくて、星座観測などではないにしても、南の空に輝くオリオン座くらいはいつでも見つけられる。真ん中に並んだ三ツ星を囲むように、左上のベテルギウスと右下のリグル、左上と右下の四つ星がつくる形ははっきりしていて魅力的だ。

 オリオン座の三ツ星を左下に伸ばした先には、大犬座のシリウス。その上のプロキオンとべテルギウスとシリウスで形作る、冬の大三角形。街灯の明かりを避ければ、これくらいの星座はたやすく確認できる。

 建て主の家での会食の後、玄関先から夜空を見上げれば、丸窓に満月が寄り添っていた。

2010年12月27日 高橋昌巳
 

 
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2010年12月09日

冬の朝日

 横浜の現場も最終仕上げの段階に入り、大工・左官・ガラス・水道などの職方が完成に向けての丁寧な仕事を続けている。外部足場と養生シートがはずされると、始めて外観の全景を眺めることができる。長い工事工程のなかでは、地鎮祭や上棟式と同じくらい待ち遠しい日となる。

 燻し銀瓦、土佐漆喰、焼き杉羽目板の組み合わせが、当事務所の最近の定番仕上げとなっている。仕上げ材は決めていても、窓の位置や屋根形などのバランスは、敷地や設計に応じて毎回少しづつ異なる。完成度を少しでも上げるべく、図面を描き模型で確認して仕事に励むのであるが、良かったかどうかはシートを剥がしてみて始めて見えてくる。心踊る一方で緊張する瞬間でもある。

 工事の先が見えてくれば、建て主にしても嬉しいに違いない。この日は、施主の親が知り合いを案内して現場を見せていた。一人は、岩手県出身の宮大工で、中尊寺の覆い屋の工事にも携わったと話していた。焼き杉羽目板・7寸角の柱・赤松のタイコ張りを見るのは珍しいことらしく、ずいぶんと関心がある様子で、竣工時には再度見せてくれる様、建て主に依頼していた。

 土台の柿渋塗りや焼き杉羽目板の製作作業は、当事務所では建て主の仕事としている。自分も関わった工事を、他人から良く言われて気分を悪くする人はいまい。こんな思い出が、これから住む家を大事にしてくれる気持ちの根っこになってくれればありがたいと思う。

大関邸中塗り仕上げ.jpg

 内部の壁は、愛知県の椛コ金工業・村井さんの中塗り土を塗って仕上げている。村井さんは、豊田市で現在も色土の採取と色粉の生産を続けている数少ない素材業者である。1階の内部壁は、中塗り用の藁スサをそのまま見せる、「切り替えし中塗り仕上げ」とし、一方畳の部屋のみ同じ材料を「鏝引きずり仕上げ」で納めてもらった。

「粘土の色は一つとして同じものは無い。しかし、どんな色の土を壁に塗っても、もともと木は土から生えているのだから、木と土は相性がいい。土塗りの家には落ち着いた雰囲気が自然と生まれる」。現場を担当している、吉田左官の言葉である。学校では教えてくれない真理を、また一つ現場で教えられた。

 冬の朝日が、柔らかい表情の土壁を照らしていた。

※椛コ金工業・村井さんの中塗り土については、シティ環境建築設計のHP中、自然素材・左官用色土の作り方にレポートをまとめてあります。ご覧いただければ幸いです。

 2010年12月9日 高橋昌巳
posted by 高橋昌巳 at 18:58| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
 
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